韓国ドラマ時代劇は、ほとんどが王様とそれをめぐる人間関係とで描かれます。誰がどんな立場なのか、どのくらいの地位にあるのか、よくわかんないけど見ているうちになんとなく納得できるようになるものですが、最初から分かっているなら、面白さも増しますよ。ちょっと長くなりますがここでは、韓国ドラマ時代劇にもよく登場する役職にしぼって解説します。
議政府(ウィジョンブ)とは
行政の最高機関
韓国ドラマ時代劇には欠かせないというのが、「議政府(ウィジョンブ)」です。ここの役職名と位階を知っていると、どんな影響力のある人物なのかがわかって、より一層ドラマを楽しむことができます。
議政府は、簡単に言えば行政の最高機関です。ここでは、出世次第で最高の位階である「正一品」まで上り詰めることが可能です。ドラマには下っ端はあまり出てきませんから、ここではトップ3の役職について説明しましょう。最初のポイントは、このトップ3は「大監(テガム)」と呼ばれることです。
原語のままでドラマを見ているとき、この「テガム」が聞こえてきたら、とにかく相当位の高い人たちだ!(=良くも悪くも権力者)と思えば間違いありません。この呼び方をされるのは、議政府では、以下の7人だけです。
「テガム~」は、どのくらい偉いのか?
実際の影響力については、時代によってかなり異なるようです。王朝の初期などは、王権のほうが強かったですし、16世紀の半ばごろからは別な部署が権力を握るようになったことなどで、議政府は、有名無実化していました。議政府が国政を統括する力を持っていたのは、中宗のころぐらいです。ドラマに描かれるように、王様と対立したり、国政を牛耳ったりするということができるほど、大きな影響力を持っていたわけではなさそうですね。
とはいえ、日本の時代劇でいえば、江戸幕府の大老や老中みたいな立場の人たちですので、それなりに権力をもっていたことは間違いありません。「京官職(中央政府)」のなかでは、他の部署を抜いてダントツに立場が高い官職です。
ちなみに議政府の長が、「領議政」、総理大臣クラスの人です。政争がらみのドロドロ劇の場合には、「領議政」「左議政」「右議政」、この3人は必ず登場しますよ。この3役を「三政丞(サンジョンスン 「政丞」は丞相の意味)」といいます。
同様に正一品の位階にある役職には、弘文館や春秋館などのトップである「領事」という役職がありましたが、これは彼ら「三政丞」が兼任していました。このほかに正一品の役職には、敦寧府(王の親族と外戚に関する役所)の領事がありましたが、これは王妃の父親に与えられるものでした。名誉職のようなものと考えておいた方がよいようです。身分は高いけれども、実権は無し、という感じです。
つまり、臣下で「領議政」「左議政」「右議政」と同等の位階の人はいないということになります。当然、出世レースのゴールはココだったわけですね。そう考えれば、やっぱり相当な権力は持っていたことになります。
六曹(ユクチョ)とは
6つの中央官庁
吏曹(イジョ)
一言で言えば、「人事」に関する事務を執り行う部署です。文官の採用や任命、俸給などの庶務(これを「文選」といいます)、王子や臣下に位を与える「勲封」という事務を司ります。また、「考課」という、役人の功績や過失、勤怠、論罪、罷免、査定といった仕事もあります。ずばり、人事課ですね。悪だくみせずにはいられないところかもしれません。「お友だち」や「忖度してくれる人」で自分の身の回りを固めたい悪徳役人には最高!の部署かも。
戸曹(ホジョ)
これは戸籍係。人口調査や戸籍の管理などのほか、賦税(税を課すこと)、穀物や財貨などの経済全般を統括していました。財務省と国税庁のようなところですから、不正蓄財をするなら、まずこのポスト!ということで、ここのポストはたいてい悪だくみしているか、逆に清廉潔白すぎて引きずりおろされるという設定になってますね。今も昔も、悪いことするなら、まずこういうところ!というわけです。
礼曹(イェジョ)
文科省と外務省のようなところです。礼法や音楽、祭祀や宴会(国賓の接待など)、外交や閣僚クラスが集まっての会議、学校や科挙などについての事務を取り扱います。インテリジェンスな部署です。
兵曹(ピョンジョ)
武官の人事や国防などの軍事を司る場所です。武官の選抜や任命、俸給などの庶務も扱います。また、護衛や陸上交通及び通信、武具などの管理などのほか、宮城や都の門の出入りとそのカギの管理なども行っていました。軍事全般を取り仕切る部署ですので、悪だくみするときには、やっぱりここもかかわってきます。防衛省と総務省、国土交通省みたいなところです。
刑曹(ヒョンジョ)
ここは裁判所と公安委員会のようなところ。法律や民事訴訟、刑罰、奴婢(ノビ)に関する庶務などを司ります。兵曹(ピョンジョ)とともに、悪だくみに加担することが多いかも。
工曹(コンジョ)
道路や橋梁、山林、沼沢などの管理をしたり、度量衡などについての事務を取り仕切るところです。また、工匠や陶冶(土器や金属器の加工、製造などを行うこと)などの技術職の管理もしました。いわば、国土交通省と経済産業省のような感じですね。
出てくるのはたいてい判書(パンソ)
ついでに位階についても触れておきましょう。六曹の最高は、「判書(パンソ)」です。これは、正二品の位なので、ぎりぎり「大監(テガム)」と呼ばれる人たち。上に役職名をつけて、「吏曹判書(イジョパンソ)」とか、「吏判大監(イパンテガム)」なんて感じで呼ばれていますので、わりと耳に慣れているかもしれませんね。その下には、従二品の「参判」、「参議」と続きます。
三司(サムサ) | 韓ドラ時代劇名物の座り込み!の主要メンバー
韓ドラ時代劇名物「土下座の座り込み」
思い通りにいかないことがあると、「王様、お考え直しください~」などと言いながら行う閣僚らの座り込み。韓ドラ時代劇にはお約束のシーンです。
悲壮感漂わせて声を張り上げているときもあれば、あくまでもフリだけ~というときもありますし、悪だくみアリアリというときもあります。一人でやることもありますが、たいていは徒党を組んでますよね。あんなことができるのは、実は「三司(サムサ)」という言論機関があったから、です。三司とは、「司憲府」「司諫院」「弘文館」の総称です。
司憲府(サホンブ)
官吏(役人)を観察して、その悪行を糾弾する役割を担っていたのが、「司憲府」です。また、現行の政治に対して論評を行ったり、風俗を正したりもしました。無実の罪を明らかにして、僭越な行為や虚偽の言動を取り締まるなどということもしていましたので、どちらかというと正義派のキャスティングが多いかもしれません。
司諫院(サガヌオン)
この部署は王様に諫言(忠告やアドバイス)をするところです。王様に物申す、というすごいことができるのはココの人。政治の過ちなどについて論駁(相手の説の誤りを論じて、攻撃すること)する職務でした。つまり、ディベートがお仕事。意外とめんどくさい人たち。
弘文館(ホンムングァン)
宮殿内の経書(儒学の経典。いわゆる四書五経など)や、史書を管理するところです。文書処理を行って、王の諮問にも応える任務を負っていました。全員、経筵の官職を兼務しています。図書館と公文書館のようなところですね。
良い政治が行われるかは「三司」がカギ
三司は、それぞれに独自に言論活動を行いますが、重要な問題の時には、「司憲府」「司諫院」がともに王への上奏を行いました。この2つをあわせて「台諫(テガン)」といいます。時には、ここに弘文館も加勢することがあったそうです。これだけの部署の役人が王様に物申すわけですから、王様も大変なプレッシャーだったでしょうね。
それでも王様が頑張って、なかなか許しを出さないときには、三司の官員が一斉に宮殿の門前でひざまずきいて訴えるという行動に出ました。
このように三司は、王様に諫言する機関でしたから、うまく機能しているときには王様の独裁や臣下の権勢を抑えることができました。しかし、三司の言論が特定の勢力に利用されれば大混乱となったわけです。
三司の役職
三司のなかで、もっとも高い役職をもつのは弘文館です。正一品の「領事」ですが、これは「議政」が兼任していました。実質的なトップは、
司憲府が「大司憲」(従二品)
司諫院が「大司諫」(正三品)
弘文館が「大提学」(正二品)
となります。「大監(テガム)」と呼ばれるのは正二品までですから、弘文館の「大提学」だけが「大監(テガム)」です。残りの2人は、「令監(ヨンガム)」と呼ばれます。なかなかややこしいですね。
ちなみに「大長今」のはじめのほうで、幼いチャングムが試験を受けるシーンがあります。「正三品で令監と呼ばれる役職を全部言え」という問題に対して、チャングムはよどみなくすらすらと答えます。中央・地方すべての省庁の役職をすべて暗記していたことになりますので、尚宮たちの度肝を抜いた、というわけです。まあ、ドラマの演出ですけれども。