歴史を知ればドラマはもっと面白い!

韓国時代劇の王様たちとその時代

後宮のしくみと女性たち

女優陣の華やかな衣装も見どころの韓国時代劇。たぶん時代考証的には違うんじゃないのかなあ、ということも多いですが、そんなのを突っ込むのは野暮というもの。きれいなものはキレイ、でいいんだもんねー、と思って見ています。女たちの戦いは、その「身分」「立場」によって戦い方が相当異なってきますので、女性たちの品階や名称は、しっかりと理解しておいた方が絶対に面白いですよ。

内命婦(ネミョンブ)とは

時代劇の花 後宮の女たち!

時代劇に登場する貴族階級の女性たちは、「内命婦(ネミョンブ)」と「外命婦(ウェミョンブ)」とに分けられます。まず華やかな後宮の女たちである「内命婦」についてみていきましょう。

「内命婦」とは、宮中に奉仕する女たちのなかで、「品階」つまりある程度の位がある女性たちのことです。そのなかでも、正一品から従四品までの位階ならば、王の後宮を指します。これを「内官((ネガン)」といいます。

ちなみに、品階(位階)は、日本と同様に(というより日本も朝鮮も中国の制度に倣っているので)、1つの位を「正」と「従」とに分けます。上下関係は、「正」>「従」で、「正」のほうが上です。彼女たちの仕事は、もちろん、王の子ども(とくに男子)を産むこと!!古今東西、女たちの争いというのはたいていここで発生してますね。

内官 後宮の8品階

さて、その後宮の8品階は以下の通りです。

ご存知の方も多いと思いますが、あの有名な「チャン・ヒビン」は、

チャン ⇒ 姓(チャンは「張」)
ヒ ⇒ 禧 雅号のようなものですね。
ビン ⇒ 嬪(正一品)
となります。

歴史の本などでは、「チャン・ヒビン」ではなく、「禧嬪張氏(ヒビン・チャン氏)」といいます。この人は、朝鮮王朝の王宮ではめずらしく実名がわかっている人で、ドラマの名前にもなった「チャン・オクチョン(玉貞)」は、実名です。ドラマでは熾烈な戦いを演じるライバル「淑嬪崔氏(スクピン・チェ氏)」は、実名がわかっていません。「トンイ」は、創作上の名前です。

では、ここで一つ問題。

時代劇では、必ず波乱万丈の人生を送る王妃様。彼女の品階はどこにあたるでしょうか。

答えは、「無階」です。王の正妻ですから、王とともに超越した存在なんですね。

女官たち

ドラマに出てくる女官たちは、「内命婦(ネミョンブ)」の所属です。宮中で奉職する女たちはたくさんいますが、その中でも品階のある者が内命婦となります。つまり、雑用の奴婢などは宮中で働いていても、内命婦ではないというわけです。すでに述べたように、正一品から従四品までは、王の後宮。これに対して、正五品以下は、王や王妃、後宮らの身の回りの世話や、王宮内での仕事を受け持つ宮女たちとなります。

おなじみの尚宮(サングン)というのは、正五品です。つまり、女官の中では最も位階が高い女性ということになります。同じ正五品の女官の位階には、「尚儀」というのもあるようですが、ドラマではお目にかかったことはありませんね。定員などの詳細も知りたいところですが、残念ながら日本語の書籍の中では、ちょっと無理みたいです。ちなみに、「尚」の字が付く役職は、ほかに、尚服・尚食・尚寝・尚功・尚正・尚記の6つで、従六品までの位階です。

トンイ』で、監察府の女官が、降格になるシーンがあります。「従九品」に降格させらていましたが、これは、内命婦のなかでも最下位まで落とされたということになります。(ただし、『トンイ』の同じ回で昇格シーンも描かれますが、位階と官職とが一致していないです。なんでかな)

細かいところはともかく、女官の位階は、一番上が正五品、一番下が従九品だと覚えておくとよいですよ。

彼女たちは、すべて“王の女“として厳重に貞操を監視されていましたので、多くが未婚となります。しかし、お手が付いて(これを「承恩」という)寵愛を得たり、王子や王女を産んだりすれば、一発逆転、後宮のトップに上り詰めることもできました。

 

外命婦(ウェミョンブ)とは

旦那さんの出世は奥さんの出世

王宮の外で品階をもつ女性たちのことを「外命婦(ウェミョンブ)」といいます。具体的には、王妃の母や、王女、世子の乳母、宗親(王族)らの妻、文武官の妻のことです。宗親(王族)らの妻や、文武官の妻は、夫の官職に応じて爵位を受けました。文武官の夫が、「大監(テガム)」と呼ばれる人たちを基準にして、呼び方をまとめてみました。

「奉保夫人」とは、世子の乳母に与えられる爵位です。ドラマではあんまり耳慣れない人たちですね。でも、王妃の母や大君の妻である「府夫人」はわりとよく登場します。夫の出世次第で、自分の品階も変わったわけですから、旦那様には頑張って出世してもらわないと、という気分になるのもよくわかりますね。なお、与えられるのは爵位だけで、宗親や文武官の妻らに経済的な保障はありませんでした。

王女たち

王女のことのことを「公主(コンジュ)」といいます。現在の韓国では、自分はお嬢様だと勘違いしている高慢チキな女の子のことを揶揄していうようです。

朝鮮王朝では、嫡出(母が正妻)か庶出(母が側室)かによって、厳格に差別されますが、これは王子や王女でも同じ。公主は、嫡出の王女、つまり母親が王妃である王女のことです。後宮の側室が生んだ王女は、翁主(オンジュ)と呼びます。どちらも無階で、内命婦ではなく「外命婦(ウェミョンブ)」に所属します。また、世子の嫡出の王女は、正二品の郡主、世子の庶出の王女は、従二品の県主となります。彼女たちも外命婦に属します。

ちなみに、王宮にいる女はすべて、「王の女」。世子であっても勝手に手をつけて後宮にすることはできませんでした。あくまでも世子は、自分の世子宮に所属する内命婦の宮女だけ、後宮にすることができたのです。

儒教に縛られた女性たち

朝鮮王朝の時代において、儒教的価値観は、女性にも重くのしかかっていました。

烈女不更二夫

烈女(ヨルリヨ)は二夫を更(あらた)めず

といわれ、女性の再婚は固く禁じられていました。つまり、貞操を守ることは命を守ることよりも重要なことと考えられていたのですね。姑や舅によく尽くし、貞操を固く守るのが女性の理想とされました。こうした女性を「烈女」といいます。もちろん、男性優位の社会から、一方的に押し付けられた観念であることは言うまでもありません。

『トンイ』で愛らしい王子として登場した後の英祖。ドラマでは、生母である淑嬪(トンイ)の影響を受けて、「男女に能力の違いはない」と教育されていましたが、史実はどっこい。英祖のこんな言葉が残っています。

在臣為忠  臣にあっては忠 (家臣なら忠義に厚いものが理想)

在子為孝  子にあっては孝 (子どもは孝行であるものが理想)

在婦為烈  女にあっては烈 (女は烈であるものが理想)

バリバリの「烈女」推進派だったんです。

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